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大阪地方裁判所 昭和45年(ワ)3617号 判決

原告(反訴被告) 川畑秋夫

原告(反訴被告) 川畑秀雄

原告(反訴被告) 平井毅

右三名訴訟代理人弁護士 露峰光夫

右訴訟復代理人弁護士 谷五佐夫

被告(反訴原告) 株式会社高槻地所

右訴訟代理人弁護士 大江篤弥

同 福田玄祥

主文

一、被告(反訴原告)の昭和四五年一月三一日開催の臨時株主総会における辰山兵三郎、辰山笑子、川畑勘蔵及び川畑久次をそれぞれ取締役に、川畑久幸を監査役に各選任する旨の決議は効力を有しないことを確認する。

二、反訴原告(被告)の請求を棄却する。

三、訴訟費用は本訴反訴を通じ被告(反訴原告)の負担とする。

事実

一、原告(反訴被告、以下単に原告という)ら訴訟代理人は、本訴について主文第一項同旨の判決を、反訴について主文第二項及び「訴訟費用は被告(反訴原告、以下単に被告という)の負担とする。」との判決を各求め、次のとおり述べた。

(本訴請求原因)

(一)被告会社は、不動産賃貸業を主たる目的として、昭和四三年四月六日に設立された資本金一、〇〇〇万円、発行済株式二万株(一株の金額五〇〇円)の株式会社である。

(二)、被告会社の右設立にあたって、右株式のうち原告川畑秋夫、同川畑秀雄、同平井毅、辰山兵三郎(被告会社現代表取締役)、藤井義一は各三、二〇〇株、原告川畑秋夫の妻である川畑キヌエ、原告川畑秀雄の妻である川畑君子、原告平井毅の妻である平井スエノ、右辰山兵三郎の妻である同笑子は各八〇〇株、右藤井義一の妻である同シヨ、その子である同愛子は各四〇〇株をそれぞれ引き受けたうえ、これが払込みを了して右各株式を取得し、なお昭和四三年四月四日開催の被告会社創立総会において、原告らのほか、右川畑君子、藤井義一、平井スエノ、藤井シヨが各取締役に、また右辰山笑子、川畑キヌエが各監査役にそれぞれ選任された。右経緯により、原告らはいずれも現在被告会社の株主兼取締役の地位にある。

(三)、ところで被告会社は、昭和四五年一月三一日開催の臨時株主総会において、原告らを含む右各取締役、各監査役の各任期満了に伴い、新たに被告会社の取締役に右辰山兵三郎、同笑子のほか、川畑勘蔵、同久次を、また監査役に川畑久幸を各選任する旨の決議をなし、いずれもその就任をみたとして、同年二月二日付をもってその旨の登記を経由している。

(四)、しかしながら、原告ら及び右川畑キヌエ、同君子、平井スエノの前記各持株数をあわせると前記発行済株式二万株の六割に当る計一万二、〇〇〇株となるのであるが、原告ら及び右川畑キヌエらは、いずれも右株主総会の招集通知を受けておらず、もとより右株主総会に出席したこともないのである。従って、右株主総会は成立するに由なく、ひいて前記各取締役及び監査役の選任決議はなんら効力を有しないものというべきである(原告らは右決議は不存在であるというが、上記趣旨に解すべきである)。

(五)、よって原告らは被告に対し、右決議が効力を有しないことの確認を求める。

(抗弁に対する答弁)

(一)、抗弁(一)の冒頭の事実は否認する。同(1)のうち、被告会社設立の経緯がその主張のとおりであること、原告らにおいて税金対策上被告会社の資産の一部である高槻市下田部町二丁目三三八番地の一、同所三三九番地の一、同所三四〇番地の一地上、家屋番号三三八番一の二、鉄骨造亜鉛メツキ鋼板葺平家建倉庫一棟(以下単に本件倉庫という)、及び同市同町一丁目九一番地の一地上、家屋番号九一番の一、鉄骨造陸屋根二階建共同住宅(以下単に本件共同住宅という)をその主張のように自己の所有名義に登記しておくことが得策であると考えるに至ったこと、及び右各物件につき被告主張の各日に、その主張のように原告ら及び川畑久次の共有名義に各保存登記が経由されたことは認めるが、そのほかの事実は否認する。即ち、右各保存登記は、あくまで名義だけのものであって、被告主張の交換類似契約が成立した結果これがなされたものではない。なお、原告らの持株を含む被告主張の一万六、〇〇〇株については、現在被告会社においてこれが株券を保管中であるが、右は前記辰山兵三郎がその主張の昭和四四年九月一五日に原告らに対し、被告会社の株券はその本店において保管すべきものである旨言葉巧みに申し向け、法的知識の乏しい原告らをしてその旨誤信させたことによるものであって、この点も別段右交換類似契約が成立したことの証左となるものではない。

(二)、同(二)の事実は否認する。

(再抗弁)

仮に、被告主張の各日に、その主張のように右辰山兵三郎、同笑子を除くその余の全株主が右交換類似契約の成立によりその所有株式を右辰山兵三郎に譲渡し、さらに同人がその主張の持株の各一部を川畑久次、同勘蔵、及び同久幸にそれぞれ譲渡したことが認められるとしても、右各譲渡は、いずれもこれをなすにつき被告会社の定款九条所定の取締役会の承認が得られていないから、無効である。従って、原告らはもちろん、その妻である前記川畑キヌエ、同君子、及び平井スエノは依然としていずれも現在前記各持株を有する被告会社の株主であるものというべきところ、被告会社は前記のとおりこれらの者の出席なくして前記株主総会を開催し、前記新取締役、新監査役の選任決議をしたのであるから、右決議はその効力を生ずるに由ないものというべきである。

(反訴請求原因に対する答弁)

右請求原因事実のうち、原告らが被告会社の前記株主ないし前記取締役の地位をすでに失っていることは否認する。

二、被告訴訟代理人は、本訴について、「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を、また反訴について、「原告らは被告の株主及び取締役でないことを確認する。訴訟費用は原告らの連帯負担とする。」との判決を各求め、次のとおり述べた。

(本訴請求原因に対する答弁)

(一)、請求原因(一)の事実は認める。

(二)、同(二)のうち、川畑君子、平井スエノ、藤井シヨが被告会社の取締役に選任されたこと、及び原告らが現在被告会社の株主兼取締役の地位にあることは否認するが、そのほかの事実は認める。なお藤井義一、同シヨ、同愛子は被告会社設立後の昭和四三年九月一日その持株計四、〇〇〇株を川畑久次及びその親族である同勘蔵、同久幸に譲渡し、同人らにおいてその株主となったものである。

(三)、同(三)の事実は認める。

(四)、同(四)のうち、原告ら、川畑君子、同キヌエ、及び平井スエノが原告ら主張の株主総会に出席しなかったことは認めるが、そのほかの事実は否認する。

(抗弁)

(一)、原告らは左記理由によりすでに被告会社の株主たる地位を失っている。

(1)、被告会社は、もともと原告らがその所有農地を売却して得た資金を有利に活用するために、当時不動産仲介業を営んでいた辰山兵三郎の協力を得て、これを設立するに至ったものであるところ、原告らは、税金対策上被告会社の資産の一部である本件倉庫及び共同住宅を右売却農地の買換物件として自己の名義に登記しておくことが得策であると考えるに至った。そこで原告らは、昭和四四年九月一五日前記のとおり被告会社の設立後にその株主となった前記川畑勘蔵を交え、右辰山兵三郎と種々協議した結果、右倉庫及び共同住宅を原告ら及び前記川畑久次の共有物件と認め、右各物件につきその旨の各保存登記をするものとし、その代りに右各物件に関しなんらの権利も認められなかった右辰山兵三郎は、被告会社の発行済株式二万株のうち、同人及び前記辰山笑子の持株計四、〇〇〇株を除くその余の一万六、〇〇〇株の譲渡を受ける旨のいわば交換類似の無名契約の成立をみ、即日同人に対しその株券が交付された。しかして、これにより同人の持株は従来の分を合せ計一万九、二〇〇株となり、一方原告らは被告会社の株主ではなくなったものというべきである。なお右共同住宅についてはすでに昭和四三年八月二七日付をもって原告ら及び右川畑久次の共有名義(ただし原告平井毅の分についてはその兄である平井勲名義)に、また倉庫についても昭和四四年一二月一五日付をもって右四名共有名義(右同)にそれぞれ保存登記がなされているが、右はいずれも右交換類似契約が成立したことによるものである。

(2)、仮に右契約の存在が認められないとしても、原告らは前記川畑久次とともに前記のとおり被告会社の資産の一部である本件倉庫及び共同住宅をその共有物件として取得したものであるところ、これにより原告らに対し、実質的には、各出資金相当額の返還がなされたことになるから、原告らはすでに被告会社の株主たる地位を喪失しているものというべきである。

(二)、原告らは、被告会社の取締役たる地位も失っている。即ち、前記辰山兵三郎は、昭和四五年一月一五日前記川畑久次に対しその持株のうち、二、四〇〇株を、また前記川畑勘蔵、同久幸に対し各八〇〇株をそれぞれ譲渡したから、被告会社の株主は以上のほか前記辰山笑子を加え計五名となった。しかるところ、被告会社の取締役たる原告ら、及び監査役たる辰山笑子らの任期が満了することになったので、昭和四五年一月三一日その本店において、右株主全員が出席して臨時株主総会を開催した結果、右任期満了に伴う新取締役として前記辰山兵三郎、同笑子、川畑勘蔵、同久次を、なお新監査役として前記川畑久幸をそれぞれ選任する旨の決議をしたから、原告らはもはや被告会社の取締役ではない。

(三)、従って、原告らの本訴請求は排斥を免れない。

(再抗弁に対する答弁)

右再抗弁事実は否認する。

(反訴請求原因)〈省略〉

三、証拠〈省略〉

理由

(原告の本訴請求について)

一、職権をもって調査するに、同法二六一条の二によれば、およそ取締役が会社に対して訴を提起する場合には、取締役会または株主総会の定める者が会社を代表するのであって、このことは該取締役が株主である場合も同様に解すべきである。もっとも、がんらい右規定が設けられた趣意は、もし現在の代表取締役をして会社を代表せしめるときは、訴を提起した取締役とのいわゆる馴合により会社の利益が不当に侵害されるおそれのあるところから、これを防止し訴訟追行の公正を期することにあるものというべきであるから、明らかにかかる利益侵害のおそれのない場合には、例外的に右規定の適用はないものと解するのが相当である。

これを本件に即して考えてみるのに、原告らは、被告会社の株主兼取締役たる資格に基づき、被告会社が昭和四五年一月三一日に開催した臨時株主総会における取締役及び監査役選任決議が効力を有しないものであるとして、その確認を求めるために被告会社に対し本件訴を提起したものであって、右訴はまさに右にいわゆる取締役と会社との間の訴訟に該当する。従って、本件訴については前同条の適用の有無を検討する必要があるが、もともと右訴においては、原告は、右取締役ら選任決議が効力を有しないものであることを主張して、結局右決議により選任され現在被告会社の取締役兼代表取締役である前記辰山兵三郎の地位を争い、一方被告は、原告が現在被告会社の取締役であることを否認しているのであって(現に被告は、後記反訴において原告が被告会社の取締役でないことの確認を求めている)、結局右両者間の右訴につき、被告会社の代表者を別に定めなくても、前記馴合による訴訟追行の可能性は到底考えられない。そうすると、前記説示に照らし右訴については前同条の規定の適用はなく、被告会社の前記代表取締役である前記辰山兵三郎においてこれが追行にあたることができるものといわなければならない。

二、よって本案の当否について判断する。

(一)、被告会社が不動産賃貸業を主たる目的として昭和四三年四月六日に設立された資本金一、〇〇〇万円、発行済株式二万株(一株の金額五〇〇円)の株式会社であること、被告会社の右設立にあたって、右株式のうち原告川畑秋夫、同川畑秀雄、同平井毅のほか辰山兵三郎、藤井義一が各三、二〇〇株、原告ら主張のようにそれぞれその妻ないし子である川畑キヌエ、同君子、平井スエノ、辰山笑子が各八〇〇株、藤井シヨ、同愛子が各四〇〇株を引き受けたうえ、その払込みを了してそれぞれ株主となったこと、及び昭和四三年四月四日開催の創立総会において原告ら及び右藤井義一が被告会社の取締役に、また右辰山笑子及び川畑キヌエが同じく監査役に各選任されたことは当事者間に争いがない。

(二)そこでまず被告会社の右株主たる原告らが現在もなおその地位を有しているかどうかについて考察する。

(1)、被告会社はもともと原告らがその所有農地を売却して得た資金を有利に活用するために当時不動産仲介業を営んでいた前記辰山兵三郎の協力を得てこれを設立したものであること、原告らにおいて、被告会社の資産の一部である本件倉庫及び共同住宅につき、これを右農地の買換物件として自己の名義に登記しておくことが得策であると考えるに至ったこと、及び右各物件につき被告主張の各日に、原告ら及び川畑久次の共有名義(ただし、原告平井毅の分についてはその兄である平井勲名義)にそれぞれ保存登記がなされたことは当事者間に争いがない。

(2)、しかるところ、被告は、昭和四四年九月一五日原告らが、右川畑久次の親族である川畑勘蔵を交え、前記辰山兵三郎と種々協議した結果、交換類似の無名契約の成立をみ、これにより右各物件につき右共有登記がなされる一方、原告らは、その株主たる地位を失なった旨主張する。しかしながら、右主張だけでは、右交換類似契約の趣旨、内容ないしこれを成立せしめたと称する右当事者らの権限等が必ずしも明確でないのみならず、右交換類似契約が成立した旨の右主張に一部符合する成立に争いのない甲第八号証の一、二、の記載、被告本人川畑勘蔵、及び被告会社代表者辰山兵三郎の各尋問の結果は後記各証拠と対比してにわかに採用し難く、ほかに右主張事実を認めるにたりる的確な証拠がない。かえって〈証拠〉を総合すると、前記共有登記等がなされるに至った経緯は次のとおりであること、すなわち、被告会社は前記のとおり前記辰山兵三郎の協力を得て設立されたものであって、その本店は右設立以来引続き同人の住所である高槻市出丸町三番四六号におかれていること、被告会社の取締役には、前記原告ら及び藤井義一のほか、前記川畑君子、平井スエノ、藤井シヨが選任され、なおその代表取締役として、当初原告川畑秋夫及び前記藤井義一が就任したのであるが、同原告は他に仕事があって右代表取締役の職務に専念することができなかったところから、右藤井義一がもっぱら被告会社の業務の執行にあたっていたこと、ところが同人は、昭和四三年七月ごろ同人、右藤井シヨ、同愛子の持株計四、〇〇〇株を川畑久次に譲渡し、被告会社から手を引き、なお前記取締役であるその余の原告らもいわば素人で会社経営の経験がなかったため、その後は右辰山兵三郎において被告会社の社印、代表者印、及び帳簿類等を保管し、経理面一切を担当するなど事実上その運営にあたっていたこと、ところで、原告らは、前記税金対策上、右辰山兵三郎の了解を得、なお前記藤井義一らから前記持株の譲渡を受けるにつきその所有農地を売却処分し、原告らと同じような立場にあった右川畑久次も加えて、まず本件共同住宅につき前記のとおり昭和四三年八月二七日付をもってその共有名義に前記保存登記を経由したものであること、ついで昭和四四年九月一五日原告らのほか右川畑久次の義兄である川畑勘蔵及び右辰山兵三郎が被告会社に集って協議した結果、本件倉庫についても、前同様税金対策上原告ら及び右川畑久次の共有名義に保存登記をする旨の話合がまとまり、その結果前記のとおり同年一二月一五日付をもって右保存登記がなされるに至ったこと、もっとも登記簿上本件共同住宅については、原告川畑秋夫の持分一、〇〇〇分の二五九、同川畑秀雄の持分一、〇〇〇分の三六一、同平井毅(ただし前記平井勲名義)の持分一、〇〇〇分の一三三、右川畑久次の持分一、〇〇〇分の二四七なる記載、また本件倉庫については、原告川畑秋夫の持分一、〇〇〇分の一〇七、同川畑秀雄の持分一、〇〇〇分の四七四、同平井毅(右同)の持分一、〇〇〇分の一三三、右川畑久次の持分一、〇〇〇分の二八七なる記載がなされているが、右は原告ら及び右川畑久次がそれぞれ被告会社に対して有している貸金債権の額等を考慮して一応定められたものであって、これにより原告ら及び右川畑久次において、右各物件につき確定的に右記載の各共有持分を取得したわけではなく、現に原告ら及び右川畑久次は連名(ただし原告平井毅は右平井勲名義)で右辰山兵三郎に対し、本件倉庫に関してのみではあるが、これにつき「同人の所有権利(出資金及び貸金相当額)を認める」旨の昭和四四年九月一五日付誓約書なる書面(甲第九号証)を差し入れていること、なお前記協議に際し、被告会社の今後の運営方法等についても話合いがなされたが、その折原告らを初め被告会社の前記各株主の有する各株券については、被告会社においてこれを保管することとなり、そのころこれらの株券がその本店事務所備付の書庫内におさめられたこと、右のとおりであって、別段被告のいうような交換類似の無名契約が締結され、その履行として前記各共有登記ないし株券の保管がなされたものではなく、現に右誓約書以外にはなんら右契約の成立を証するような書面の作成等もなされていないこと、以上の事実をうかがうことができる。そうすると、被告主張の交換類似契約は締結されたことがないものといわざるを得ないから、右契約が成立したことに基づく被告の前記主張は到底採用することができない。

(3)、さらに、被告は、原告らは、前記川畑久次とともに、被告会社の資産の一部である本件倉庫及び共同住宅をその共有物件として譲り受け、これにより結局それぞれ出資金相当額の払戻を受けたことに帰するから、いずれもすでに被告会社の株主たる地位を喪失している旨主張する。しかしながら、およそいったん確定した株式会社の資本金額は、商法三七五条以下に規定する厳格な減資の手続を履践しない以上、任意に払戻等の方法によりこれを減少することは許されないものというべきところ、かかる減資の手続がなされたことは、被告においてなんら主張、立証しないところである。のみならず、そもそも本件の場合前記各物件につき前記各共有登記がなされるに至った経緯等は前記認定のとおりであって、これにより被告のいうような出資金相当額の払戻がなされたものとはたやすく認め難いから、いずれにせよ被告の右主張も採用できない。

(4)、そうすると、原告らはもちろん前記川畑キヌエ、同君子、及び平井スエノも依然被告会社の株主地位を有しているものというべきである。

(二)、次に、原告らが被告会社の前記取締役たる地位を現在も有しているかどうかについて以下考察する。

(1)、〈証拠〉によれば、昭和四五年一月三一日被告会社本社会議室において、臨時株主総会が開催され、原告ら被告会社の取締役、及び監査役全員の任期満了に伴う後任者選任なる議案について審議がなされた結果、新たに取締役に前記辰山兵三郎、同笑子、川畑勘蔵、同久次、同じく監査役に川畑久幸をそれぞれ選任する旨の決議が成立し、かつ右取締役らにおいていずれも就任方を承諾したとして、同年二月二日付をもってその旨の登記を経由したこと(右登記の事実は当事者間に争いがない)が認められる。

しかるところ、被告は、原告らは右決議によりすでに被告会社の取締役の地位を失っている旨主張する。しかしながら、前記説示から明らかなように、原告ら前記川畑キヌエ、同君子、及び平井スエノは、依然被告会社の株主であり、その持株数は計一万二、〇〇〇株であって前記発行済株式二万株の六割にあたるところ、右六名において右株主総会に出席しなかったことは当事者間に争いがなく、なお被告の全立証によるもこれらのものに対し適法な右株主総会招集通知のなされたことを認め得ない本件においては、右株主総会は結局成立するに由なく、従ってまた右株主総会においてなされた前記新取締役らの選任決議はなんら効力を有しないものといわざるを得ない。そうすると、原告らは、たとえその任期が満了したとしても、新取締役が適法に選任されるまでは被告会社の取締役たる地位を失わないものというべきであるから、これに反する被告の前記主張は採用することができない。

(2)、そうすると、原告らは依然被告会社の取締役たる地位にあるものというべきである。

(三)、右の次第であって、原告らは現在被告会社の株主兼取締役たる地位を有しているものというべきところ、前記新取締役ら選任決議は前記のとおりその効力を生ずるに由ないものであるから、被告に対し右決議が効力を有しないことの確認を求める原告らの本訴請求は正当としてこれを認容すべきである。

(被告の反訴請求について)〈省略〉

(裁判長裁判官 日高敏夫 裁判官 鈴木純雄 裁判官藤浦照生は転官につき署名捺印することができない。裁判長裁判官 日高敏夫)

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